播種性血管内凝固症候群とは…
播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)とは…
自分のワンちゃんやネコちゃんが大きな病気に罹った時に“この子は、今、DICと言って非常に危険な状態です”と言われた事がありませんか?
(自分だけかもしれませんが…)伝える側は非常に難しく、伝えられた側は最も分かりにくい病態だと思います。簡単に言えば、“危ない状況”と言うことなんですが、どういった状態で、どのくらい危ないのか?を出来るだけわかり易く書いてみようと思います。
と、その前に、血液が凝固する(固まる)とはどういった状態なのか知っておく必要があります。少し難しい話になるかも知れませんが、是非、読んで下さい。
通常、出血すると血液は5~10分で固まります。これは、出血部位に血液中の血小板が集まり、それを取り囲むように血餅が作られるからです。この血餅の形成を血液凝固といい、血漿中に溶けているフィブリノーゲンがトロンビンの働きでフィブリンに変わり、フィブリンの線維に赤血球が絡まるために形成されます。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変える酵素ですが、血液中には存在しないので血管の中では血液は凝固しません。トロンビンはいろいろな血液凝固因子の活性化が引き金となって生成されるため、この凝固因子がうまく働いてくれないと血液は固まらないのです。逆に、出血のない正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子のはたらきにより、血液は凝固しないような仕組みをもっています。
以上の血液凝固の話を頭に置きつつ、本題のDICの話に戻ります。
DICとは、本来、出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が、全身の血管内で無秩序に起こる症候群なのです。様々な基礎疾患が根本に存在し、それにより過剰な血液凝固反応の活性化が生じ、生体内の抗血栓性の制御能が破綻し、全身の細小血管内で微小血栓が多発して臓器不全、出血傾向が見られます。
原 因
基礎疾患の悪化に伴って、生体内の抗血栓性の制御をはるかに超える大量の凝固促進物質が血管内に流入することが原因と考えられています。
下記に示したものがDIC関連基礎疾患の一部です。
① 全身性細菌感染症、敗血症
② ウィルス感染症 …犬パルボウィルス症、猫伝染性腹膜炎(FIP)等
③ 犬の寄生虫感染症 …バベシア症、犬糸状虫症 等
④ 腫 瘍 …リンパ性白血病、リンパ腫、血管肉腫 等
⑤ 免疫異常 …免疫介在性溶血性貧血 等
⑥ 血管系の異常 …大動脈瘤、血管腫 等
⑦ 広範囲の組織創傷 …熱射病・高熱、頭部外傷、外科手術、胃拡張‐胃捻転症候群 等
⑧ 毒物に対する反応 …ヘビ咬傷 等
⑨ その他 …膵炎、肝不全 等
症 状
全身に多発する血栓形成に伴って血小板や血液凝固に関連する因子の消費・欠乏により、皮膚の紫斑や点状出血、全身性の出血傾向(注射痕からの出血・下血・血尿・鼻血など)、意識レベルの低下などを示します。さらに、多発する微小血栓のために虚血性循環障害を生じ、さまざまな臓器で症状(腎臓→乏尿や無尿、肺→呼吸困難、消化管→急性潰瘍による下血、中枢神経系→意識障害など)を生じ、進行すると多臓器不全で死に至ります。
診 断
血小板数、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリン分解産物(FDP)、アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)、フィブリノーゲンなどを検査し、総合的に判定します。
治 療
多くの治療を平行して行う必要があります。
①DIC基礎疾患の治療
原因となる基礎疾患の治療が極めて重要です。しかしながら、基礎疾患の除去は容易でなく、しかも時間のかかる場合が多いため、実際には抗凝固療法などによりDICをコントロールしながら、基礎疾患の治療を行う必要があります。
②抗凝固療法
DICでは、基礎疾患により引き起こされた過剰な凝固状態を制御するために抗凝固療法が必要です。ヘパリンなどの抗凝固剤や活性化凝固因子の阻害作用をもつメシル酸ガベキサート(エフオーワイ)やメシル酸ナファモスタット(フサン)の投与を行います。
③補充療法
DICの消費性凝固障害のために出血傾向が顕著な時には、抗凝固療法を十分に行いつつ、輸血などの血液成分補充を行う必要があります。
このような治療を行いながら、24時間看護を行います。
以上のように、基礎疾患の状況やその時点での体調にもよりますが、死と直結する病態です。特に基礎疾患がある方には注意が必要です。