犬の肛門周囲腺腫について
肛門周囲腺とは、肛門周囲にある特殊に分化した分泌腺の1つです。この分泌腺が腫瘍化してしまったものが、肛門周囲腺腫です。通常、痛みなどは伴わず、気付いたら“肛門のまわりに硬いしこりがあった”と言った感じで確認されます。しかし、犬がしこりを気にしてお尻を舐めたり擦ったりすれば、または、気にはしないがどんどん大きくなるようであれば、腫瘍表面が壊れ、出血や化膿、潰瘍が見られるようになります。肛門周囲がグジュグジュになる場合もあります。状態によっては排便が困難になることもあります。また、肛門周囲腺は、字の如く、肛門周囲に存在する為、1ヶ所だけではなく、数ヶ所同時に発生する事もあります。
原因
男性ホルモンが大きく関与していると言われています。ですので、去勢手術をしていない歳をとったオスのワンちゃんは要注意と言うことになります。
未去勢のオスのワンちゃんにできた場合、多くは良性腫瘍ですが、時間の経過と共にグングン大きくなります。また、良性腫瘍から悪性腫瘍へと変化する事もあります。男性ホルモンの関与の少ないメスのワンちゃんにはほとんど見られませんが、もし、同じような場所にできた場合、悪性腫瘍(アポクリン腺癌)である可能性が高くなるので注意が必要です。
治療
体の表面にできた腫瘍の場合、手術で取除くことが第一選択となります。しかし、肛門の周りの皮膚は常に伸び縮みしなければならないため皮膚にあまり余裕がない事や皮膚のすぐ下には筋肉(肛門括約筋)がある事などから、あまり大きく切り取る事はできません(術後、肛門の締りが悪くなるなどの障害が起こる可能性があるからです)。ですので、できるだけ小さなうちに手術を行う事が大切です。便の出口に近いので、術後の感染症など注意が必要になります。
通常、腫瘍切除と同時に去勢手術も行います。前に書いたように、肛門周囲腺腫は男性ホルモンと関係があるため、ホルモン供給を遮断する意味で精巣を取ってしまったほうが再発する可能性が少なくなるからです。
その他の治療法としては、凍結療法や温熱療法、レーザー、放射線療法、化学療法などがあります。ホルモン剤投与と言う方法もありますが、あまり効果は期待できません。あまりに大きすぎる腫瘍の場合は、こういった方法を併用し、腫瘍自体を縮小させて手術する場合もあります。
良性の場合はその部分だけを小さなうちにすべて取除いてしまえば治りますが、悪性の場合は見た目が小さくても完全に取除く事が難しく、体のほかの部分に転移している事もあるため、治療は非常に困難となりますが、基本的には腫瘍を全て、又は一部を取り除き、病理検査に出してみないと良性/悪性の判断はできません。“大きいから~”“小さいから~”と言った判断は危険です。
予防
発症に男性ホルモンが関与しているので、若いうちに去勢をすることが一番の予防になります。また、良性の場合でも経過とともに悪性に変化する場合や異常に大きくなる場合があるので、肛門付近(肛門の周囲および尾の付け根など)にしこりがないか確認してあげましょう。
最後に、ほとんどの場合、高齢での手術の選択を迫られるため、術前の状態には気を配る必要があります。“高齢の子に麻酔をかけて手術するのはちょっと怖い”と思われるかもしれませんが、麻酔方法の技術も進歩しているので、見つけたらすぐに動物病院に相談し、十分な術前検査や説明を受けられる事をお勧めします。