猫白血病について(前編)
原 因
猫白血病ウイルスは、猫免疫不全ウイルスとともにレトロウイルス科に属するウイルス(レトロウイルス科、ガンマレトロウイルス属、ほ乳類ウイルス群の猫白血病ウイルス:Feline leukemia virus = FeLV)です。猫にしか感染しない猫固有のウイルスで、猫の体以外では非常に不安定で、室温では数分から数時間で感染力を失ってしまいます(ただし排泄物などで湿った敷物などでは、やや長く感染力を保つこともあります)。太陽光線、紫外線照射、熱、アルコールなどで簡単に死滅してしまいます。このウイルスに感染すると約20~30%の猫に白血病やリンパ腫といった血液の腫瘍の発生がみられます。しかし、実際には血液腫瘍よりむしろ様々な猫の病気の原因になっていることの方が多いようです。
感染経路
感染猫の血中には感染力を持ったウイルスが存在し、ウイルスが唾液・涙・糞便中に排泄されます。
①母猫が感染している場合は胎盤や母乳を介して子猫に伝染することがあります。しかし、多くの子猫は流産や死産となり、無事生まれたとしても多くは早期に死亡してしまいます。
②ウイルスは感染している猫の唾液を介して伝染することあります。この伝染が最も多く、グルーミング、同じ食器で飲食をすることにより経口感染します。この場合、持続的に濃厚な接触で感染が成立します。
③咬み傷からもウイルスが侵入し、高率に伝染すると考えられています。しかし、感染しても発病せず、ウイルスが体内から消えてしまう場合もあります。この現象は年齢に関係しており、実験では6週齢以下の子猫では80%以上が持続感染となりますが、8~12週齢では30~50%、1歳以上では15%の猫だけが持続感染となったと報告されています。持続感染になれば生涯ウイルスを持ち続けることになります。
猫にストレスがかかっていると感染を助長します。口・鼻からが感染の主体となり、侵入したウイルスは口の中の咽頭のリンパに入り、数日のうちに細胞により運ばれ血液中に出ます。その後、脾・リンパ節・腸管・膀胱・唾液腺などの標的組織に運ばれ、さらに骨髄にも達します。
検 査
感染しているかどうかは血液検査で簡単に分かります。拾ってきた猫を飼い始める時や外に出てけんかをした時、猫白血病ウイルスのワクチンを接種する時は検査を受けましょう。けんかをした場合、すぐに検査をしても感染の確認はできません。3週間くらい経てば確認が可能となります。もし1回目の検査で陽性であったとしても陰転する可能性があるので、3~4ヵ月後にもう一度検査をします。そこで陽性であれば、その猫は一生陽性であるということになります。
症 状
ウイルスに感染すると約2~4週間で血液中にウイルスの蛋白が存在する状態(ウイルス血症)になります。しかし、これだけでは猫が今後どうなるかは分かりません。感染を受けた猫の中でウイルス血症を起こすものは70~90%とされています。それ以外の猫は、何らかの機構でウイルスをはねつけ、感染自体が成立しないようです。
感染した後の症状としては、急性期と持続感染期で異なります。
①急性期
ウイルスの感染が成立するとまず急性期の症状がみられます。この時期はウイルスが骨髄に達し、骨髄の細胞内で増殖しようとしますが、免疫が成熟している猫(大体4週齢以降)では、ウイルスに対する免疫が高まります。免疫の高まりはウイルスが増殖する骨髄の細胞を破壊することを意味し、その結果、発熱・元気消失や全身のリンパ節の腫れがみられるようになります。また、血液検査では白血球減少症・血小板減少症・貧血などが発見されます。一般的に、この病期の症状が軽いか無症状の場合は、一過性の感染で終わり、症状が重度の場合は、持続感染になりやすいと言われています。
②持続感染期
急性期の症状が 一旦 治まります。外からみているだけでは、あたかもウイルス感染が終結したようにみえます。これは、免疫が戦うのをやめる=感染した細胞を攻撃するのをやめてしまうからです。ですので、ウイルスは骨髄の細胞に持続的に感染します。数ヵ月~数年は表面的には健康な状態が続きますが、多くの持続感染した猫は感染から約3年以内に発症し、多くは亡くなってしまいます。感染後2年で63%、3年半で83%が死亡するという報告もあります。
ウイルスは骨髄細胞だけではなく体中の各種の細胞に感染するため、多様な病気が起こります。しかも感染した細胞をがん化させたり、あるいは殺してしまったりと影響は様々です。代表的なものとしては、造血器腫瘍(リンパ腫、急性リンパ性および骨髄性白血病、骨髄異形成症候群)、再生不良性貧血、赤芽球癆、流産、脳神経疾患、猫汎白血球減少症(FPL)様疾患などが挙げられます。また、免疫不全や免疫異常に関連して免疫介在性溶血性貧血(IHA)などの免疫介在性疾患や糸球体腎炎、免疫不全に関連した疾患としてはヘモバルトネラ症、猫伝染性腹膜炎、トキソプラズマ症、クリプトコッカス症、口内炎、気道感染症などの疾患が挙げられます。これらの病気は外からみただけでは診断は難しいものばかりです。猫に何らかの症状がみられたら、かかりつけの動物病院で詳しい検査が必要になります。
猫白血病ウイルスに感染して、発病した猫の性別は雄が全症例の60%~70%を占め、不妊済みの雄および雌の発症率は未処置の猫に比べて明らかに低いことが知られています。予後は疾患により異なりますが、多くは長く生きることが出来ません。