猫伝染性腹膜炎(FIP)について

原 因
猫伝染性腹膜炎は、猫コロナウイルス(Feline coronavirus: FCoV)の感染が原因で発症します。正確に言うと、病原性の弱いこのウイルスが猫の体内で、きわめて病原性の高いウイルスに突然変異することによって引き起こされると考えられています(ごく一部の猫で起こります)。突然変異により病原性の高いウイルスが発生する条件ははっきりわかっていませんが、下記の①~③に当てはまる場合、起こり易いと考えられています。
①FeLVやFIVの感染がある猫
②集団飼育で高ストレスの猫
③免疫抑制を起こすウイルスの感染や、子猫や老猫など免疫力の弱い猫
◎コロナウイルス(FCoV)とは…
このウイルスが感染・発症しても、下痢や軟便程度と症状は軽く、時には症状のないこともありますが、ウイルス自体は広範囲に存在しています。多頭飼育であれば、このウイルスに対する抗体を持った猫が非常に多く、しかも35-70%の猫が随時糞便中にこのウイルスを排泄しているというデータもあります。このように、FCoVは集団内では容易に感染し、抗体の保有率は一般に高い傾向にあります。しかし、このウイルスがFIPを起こすわけではありません。ですので、血液検査での高い抗体価=FIPではないということになります。
きわめて条件の悪い環境で多頭飼いされている猫の中で、FIPを発症するのは最大限10%程度で、発症した猫から他の同居猫へFIPウイルスが感染することは、事実上ないと言われています。
感染経路
感染経路についてはまだはっきりと解明されていませんが、咳や便とともに排出されたウイルスが、別のネコの鼻や口から侵入し、気管や腸で増殖するといわれています。
症 状
始めは、元気や食欲の低下や削痩、発熱が多くのネコで見られます。
この猫伝染性腹膜炎は、臨床症状が大きく分けて2つのタイプに分かれます。まず、1つ目は、腹水や胸水が溜まるウエットタイプ(滲出型)。2つ目は、神経・眼・腎臓・肝臓等が冒され、体内に液体が溜まらないドライタイプ(非滲出型)です。もちろん、中間型もみられることもありますが、比較的、ウエットタイプがよく見られるように思えます。
ウエットタイプは、脱水や貧血などが見られ、黄疸・嘔吐や下痢・便秘を繰り返すこともあります。腹膜炎による腹水貯留により腹部が大きくなったり、胸膜炎によって胸水が溜まり、呼吸困難(浅くて早い呼吸)を起こすこともあります。
ドライタイプは、腎臓や肝臓の障害、神経症状(てんかん、性格の変化、異常な行動、歩行困難、感覚麻痺、排泄の麻痺、顔面神経の麻痺など)、眼の障害がよくみられます。
その他にも、特徴的な病気を作らずに、眼が濁ってくる前ブドウ膜炎や、麻痺などの神経症状がみられる場合もあります。
診断・検査
血液検査(抗体検査)でウイルスの有無を調べます。
先ほども書いたとおり、抗体価の測定は目安でしかありません。低い抗体価でも発症する場合や高い抗体価でも発症しない場合もあります。ただ、極端に高い抗体価が高く、臨床症状も伴っている場合は、FIPである可能性が高くなります。抗体価と臨床症状を合わせて慎重に判断します。
一般的な血液検査では、軽度の貧血、血液中蛋白濃度(TP)の上昇、血清蛋白の異常(ポリクローナルガンモパチー)がよく見られます。また、ウエットタイプの場合、胸・腹水の検査を行うと、高蛋白で細胞数の少ない炎症性浸出液であることがわかります。液体は、総蛋白濃度>3.0g/dl、比重>1.017、γグロブリンの増加によるA/G比の低下が特徴的です。ドライタイプの場合は、肉芽腫病変の細胞診を行うと、無菌性好中球性炎症を伴うマクロファージ、リンパ球主体の肉芽腫反応が特徴的です。
治 療
現在のところ、猫伝染性腹膜炎の根治療法はなく、症状を和らげる対症療法が主体となりますが、FIPが発症した場合、治療を行っても反応が悪く、死亡するケースが多いのは確かです。対症療法としては、呼吸困難の原因となる胸水があれば抜きます。腹水は呼吸の障害や腎臓の圧迫がなければ特に抜く必要はありません。他には、薬を使った内科療法も行う場合もあります。インターフェロンやプレドニゾロンの投与を行うことにより、一部の猫では症状の改善が見られることがあります(2年以上の生存や治療の必要がなくなる場合もあります)。また、状況に応じて抗生剤の投与も行います。FIPだからといって希望を捨てず、獣医師と十分に話し合い、治療を行うことが重要だと考えられます。
予 防
猫伝染性腹膜炎のワクチンは、日本にはありません。この病気自体が、条件の悪い多頭飼いや免疫力が低下した猫が発症しやすいと言われているため、キャリア・ネコとの接触を避ける事や生活環境を清潔にかつ快適にしてストレスを減らし、普段の健康管理に気をつけることが予防として重要です。完全室内飼いにすることや新たに子猫を飼い始めるならウイルスチェックを行うこと、仮に高抗体価のネコであれば、ストレスを避けて単頭室内飼いにするも一つの方法だと考えられます。
このウイルスが気になるという方には、薄めた塩素系漂白剤などの消毒薬が有効です。


 

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