犬の甲状腺機能低下症について
甲状腺とは
甲状腺は、喉のすぐ下に位置する甲状腺ホルモンを分泌する内分泌器官です。この甲状腺ホルモンは、体を構成する骨・筋肉・内臓・皮膚など、全身の新陳代謝や活動を調整する重要な役割を担っています。ですので、このホルモンが減少すると、体の様々な部分に影響を及ぼし、それに伴い様々な症状が見られます。
原 因
95%以上は甲状腺自体の病気(原発性の機能不全)によるものとされています。その原因として、
①自己免疫反応による甲状腺の破壊(遺伝性の場合もそうでない場合も存在)
②原因不明の突発性甲状腺萎縮
などが知られています。他の病気が引き金になる場合もあります。甲状腺組織の破壊または萎縮が75%を越えると甲状腺で産生・分泌されるはずのホルモンが体からなくなり、症状が現れてきます。
統計的には、中年5歳以降の中型犬や大型犬に多く、トイ種やミニチュア種などの小型犬に発生することは少ないようです。好発犬種としては、ゴールデンレトリバー、シベリアンハスキー、シェルティー、グレートデン、ドーベルマン、アイリッシュセッター、ミニチュアシュナウザー、ボクサー、コッカスパニエル、エアデールテリア、柴などが挙げられますが、雑種を含めどんな犬種にも発生する可能性があります。性差はないようですが,雌では避妊済みの雌の方が多いという報告もあります。猫ではほとんど起こりません。
症 状
どんな病気にもみえるほど、症状は多岐にわたり、またはっきりした症状はありません。これは、全身の代謝(エネルギー代謝やタンパク・ビタミン・脂質代謝など)に関連する甲状腺ホルモンが出なくなるために、症状も全身にわたると言うことです。比較的多く見られる症状としては・・・
・無気力になり、寝ている時間が多くなる (活発さがなくなる)
・顔の表情の変化
・体重の増加 (食べ過ぎていないのに肥満になる)
・体全体の毛が薄くなり、発毛が遅い (特に尾の脱毛)
・皮膚の異常 (お腹の皮膚が黒ずんだり、ガサガサしてきたりするなど)
・皮膚の肥厚や慢性脂漏性皮膚炎
・以前に比べ、寒がる
・徐脈
・歩様異常 (突っ張ったような不自然な歩行や足腰が弱くなる)
・筋障害や末梢神経障害 (てんかん、平衡感覚障害、顔面麻痺など)
・行動の変化 (むら気になる、理由なき攻撃性・不安感の増加)
・貧血や高コレステロール血症
上記の症状はいずれも年齢を重ねると出てくる加齢性の変化として捉えられがちです。特に食欲がある場合には、「年のせい」として片付けられがちですので注意が必要です。
検 査
血液検査により甲状腺ホルモンの測定を行います。しかしながら、注意しなければいけないのが、甲状腺は正常だが甲状腺以外の疾患によって甲状腺ホルモンが低下してしまう事があると言うことです。例えば、糖尿病、副腎皮質機能亢進/低下症候群、腎疾患、肝疾患、心疾患、全身性感染症、貧血、腫瘍などでも甲状腺ホルモンが低下することがあります。仮にこういった病気から甲状腺ホルモンが低下している場合、甲状腺機能低下症の治療をしてもあまり効果的とは言えません。飼い主さんからの実際の症状と聞き、きちんと基礎疾患を除外し、ホルモン検査をして判断していきます。ですので、気付いた事、普段から感じていることなど、どんなことでも獣医師に伝えることが重要です。
治 療
正確な診断が下されれば、治療はいたってシンプルです。産生・分泌できなくなった甲状腺ホルモンを、投薬で補充してあげます。投薬して再度 血液検査を行い、ホルモン値を測定する必要があります。適切なホルモン補充ができれば、体重の減少や活発さが戻り、発毛や毛質の改善が認められ、「年のせい」だと思っていた犬の様子が鷲くほど変化します。ただし、甲状腺ホルモン剤の量が多すぎたり、甲状腺機能が正常な犬が甲状腺ホルモン剤を飲み続けたりした場合には、甲状腺機能亢進症(中毒)の状態になり、最悪の場合には心臓発作を起こしてしまうこともあります。必ず獣医師の指導のもとで投薬して下さい。甲状腺ホルモン剤は基本的には生涯必要です。また、甲状腺機能低下症の予防法はなく、早期発見・早期治療が大切です。
最後に、循環器疾患によって甲状腺ホルモン値が低下しているからといって、甲状腺機能低下症としてホルモン補充治療を進めるかといったらそうではありません。このように甲状腺機能低下症とは、基礎疾患の有無など、身体全体の状態を総合的に考慮して診断を下す必要があるという複雑な面もある疾患なのです。よく観察し、少しでも症状に当てはまる変化があれば、早めに動物病院に相談して下さいね。