猫の甲状腺機能亢進症について

原　因
甲状腺ホルモンの過剰な分泌により多臓器に障害をもたらす、猫に比較的多く診られる疾患です。この過剰な分泌は、甲状腺の過形成や腫瘍などが原因で起こります（過形成の発生原因ははっきりと解明できていません）。ご存知かも知れませんが、この疾患は人で言うバセドー氏病で、人の場合は若い年齢でおきますが、猫の場合は高齢でよく診られます。
症　状
先ほども書いた通り、高齢のネコで下記のような症状が診られたら注意が必要です。比較的、ゆっくり進行し、基本的に歳のわりに元気なので病気と言う認識に乏しい病気です。
・高齢だが、やたらと動きが活発で興奮する
・眼がランラン（ギラギラ）としている
・食欲旺盛だが、痩せてくる
・よく水を飲む（その分、よくおしっこをする）
・毛ヅヤが悪くなった
・胃腸障害（嘔吐や下痢）
病気が進行してくると…
・呼吸が荒くなる
・食欲、活動性の低下
・場合によっては突然死
甲状腺ホルモンは体のほとんどの組織に作用して、代謝を盛んにする働きがあります。結果、エネルギーが生産され活動的になり、体温や心機能も高まります。細胞の酸素消費量が増え、心臓は、全身の細胞に多くの酸素（＝多量の血液）を送り込むために肥大化し、過剰に働き続けます。また、体内の細胞がどんどんエネルギーを使うため、体は痩せ、心臓や呼吸器を含めた多臓器に傷害を与え、限界を超えた末期には、燃え尽きたように亡くなってしまいます。
診　断
身体検査やレントゲン検査、甲状腺ホルモンの測定を含めた血液検査などを行い診断します。身体検査では甲状腺の腫大が確認される事があり、レントゲン検査では心臓の拡大（肥大型心筋症に似る）が見られる事があります。血液検査では、甲状腺ホルモンの上昇や赤血球増加、肝機能障害が見られます。これらの結果と臨床症状から診断を下します。
治　療
内科療法が一般的で、出過ぎているホルモン量を調節する（抑える）薬の投与が選択されます。適正量の薬を 日々 与える事で、過剰になっているホルモン量を正常値に保つ事ができ、症状の悪化をくい止めることができます。投薬する事で症状は改善しますが、止めてしまうと元に戻り、症状が悪化します。継続して投薬する事が重要になります（一生、投薬を続けなければなりません）。勿論、薬を飲ませるわけですから、副作用が出るコもいます。チアマゾールと言うホルモン合成阻害薬の場合、食欲不振や嘔吐などの消化器症状、元気消失、黄疸、肝障害などが出ることがあります。
他の治療法として外科治療、つまり手術によって異常を起こした甲状腺を取り除く方法があります。しかし、高齢のネコで多い病気なので、腎臓を始め、他にも悪いところがあると手術に踏み切れない場合もありますし、手術が行える状態であったとしても、甲状腺の周囲には体内のカルシウム代謝を調節するホルモンを分泌する副甲状腺が取り巻き、甲状腺切除手術中にこの副甲状腺を傷つけ、カルシウム不足となり命を落とすケースもあります。また、再発例として甲状腺を切除した場合でも、体のどこかに新たに“甲状腺”を作ってしまう異所甲状腺症が何％か発生します。
注意点としては、この甲状腺機能亢進症という病気により、本来であれば表に出てきていたであろう疾患が隠されている場合もあります。ですので、治療を始めた途端、別の病気が見付かるといった事も多くあります。かかりつけの獣医師の先生としっかり話をして、治療してあげましょう。