犬の乳腺腫瘍について

 極々、稀に雄犬にも発生しますが、一般的には、雌犬に最も多く見られる腫瘍です(雌犬の腫瘍のうち約52%と言われています)。ヒトの発生率の約3倍という報告があります。雌犬の乳房またはその付近の皮下に様々な大きさの「しこり」が発生し、通常、痛みなどは伴いません。ですので、「しこり」が大きくなったり、複数の腫瘍が発生することにより気付く事が多いようです。
 犬の乳腺腫瘍の場合、「良性乳腺腫瘍」と「悪性乳腺腫瘍」の割合は1:1です。さらに、「悪性腫瘍」のうち、がん細胞が早期に血液やリンパに乗り、リンパ節や肺などの臓器に“転移するもの”は約50%(転移をするものは乳腺腫瘍全体の約25%)と言われています。平均年齢は10~11歳で、若齢での発生の方が良性腫瘍の傾向が強いという報告もありますが、過去に良性乳腺腫瘍が発生した犬では、発生のない犬に比べ、悪性の乳腺腫瘍が発生しやすいという報告もあります。悪性の場合、形態的には腫瘍の増大速度、周辺リンパ節への転移の有無、筋肉に固着(くっ付いている事)か可動性(割に自由に動く事)か、腫瘍の硬さなどの判断材料がありますが、最終的には病理組織検査によって判断されます。
◎発生に関する危険因子
 発症メカニズムには不明な点も多いのですが、若齢で避妊手術を受けて卵巣を摘出すると発生率が低いのに対し、発情を繰り返した未避妊の高齢犬ほど発生率が高くなることから、卵巣ホルモンとの関係が密接であると言えます。避妊手術と乳腺腫瘍との関連性は下記の通りになっています。
 避妊手術(卵巣子宮摘出術)の時期  乳腺腫瘍の発生率(%)
   初回発情前                 0.05
   初回発情~2回目の発情前        8
   2回目の発情後~              26
 未避妊の雌犬は避妊済みの雌犬に比べ、約7倍発生リスクが高くなります。
 その他には、肥満や食事も乳腺腫瘍の発生と関連があると言う報告があります。未避妊で1歳時に肥満症であった犬は、約3倍、発生率が高く、赤身の肉を多量に摂取していた犬も乳腺癌発生リスクが高くなるという報告もあります。しかしながら、高脂肪食の摂取や診断時の肥満は腫瘍の発生には関連がないと言われています。
◎発生に関係のない因子
 発情異常、妊娠、初産の年齢、生まれた子犬の頭数、異常な発情周期、偽妊娠などは、乳腺腫瘍の発生に関する危険因子とまでは言えないようです。
診断と治療
 まず、注意してもらいたいのが“乳腺にしこり = 乳腺腫瘍”ではないということです。例えば、偽妊娠や乳腺炎などで乳腺に炎症が起こった場合も一時的にしこりが出来ますが、それらは自然に消失したり、場合によっては内科的治療により治癒可能です。また、乳腺付近に他の皮膚腫瘍(肥満細胞腫など)が発生することもあるため、まず、しこりが腫瘍なのかどうか、腫瘍であればどんなものなのか検査する事が重要です。乳腺腫瘍らしいと推定できたとしても、良性/悪性の判断は出来ません。先ほども書いたとおり、最終的には腫瘍を切除し、病理組織検査で診断が下るからです。
 治療(根治)するためには外科療法 = 手術が第一選択となりますが、手術は、術前の状態や転移の有無、麻酔のリスクなどクリアしてからになります。問題がなければ、手術方法として、
 ① 腫瘤摘出術
 ② 単一乳腺切除術
 ③ 同側乳腺切除術
 ④ 両側乳腺切除術
などがあります。それぞれの方法で、メリット・デメリットが存在するため、実際に手術を受ける場合は、獣医師としっかり相談し、その子に合った手術を考えます。そして、切除した腫瘍は病理組織検査に提出し、病理学的診断をつける事で、手術だけで治療終了なのか、それとも化学療法を併用した方がよいのか等、その後の治療方針を立てる上で非常に重要になるため、きちんと検査する事をお勧めします。
 術前の検査で既に遠隔転移(多くは肺転移)が存在したり、手術で切除不可能なほど腫瘍が増大してしまっている時には、外科療法と化学療法(抗癌剤)の併用や化学療法単独、放射線療法を実施して、転移や乳腺腫瘍の進行を遅らせる事が可能となる場合もあります。温熱療法も出来るだけ良い状態で長く一緒にいれるように考えられた方法です。免疫療法や遺伝子治療など新しい治療法も研究されています。
 転移があったとしても、元々の乳腺腫瘍が大きすぎて生活に支障が出たり、傷ついて化膿し痛みでQOL(生活の質)が低下するようであれば、治す目的ではなく、快適に生活できることを目的として緩和的な外科手術を行うこともあります。
予防
 避妊手術を受ける事により、乳腺腫瘍になる確率は大幅に減ります。特に子どもを産ませるつもりがない時は、早期の避妊手術が最大の予防法ということになります。
 避妊手術に抵抗のある方には、出来る限り早期発見をしてあげましょう。腫瘤が小さければ手術時の傷も小さくて済みます(手術方法により違いはあります)。その後の対応もし易くなります。月に1回でよいですから、お腹をなでるついでにしこりの有無を確認してみて下さい。


 

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