糖尿病について
~体とエネルギー(糖分)について~
動物の体を構成する細胞は、血液中にある(体に取り込まれ蓄えられた)糖分を細胞内に引き入れる事で、エネルギーとして利用しています。この時、血液中に含まれる糖分を細胞内に入れる役割を、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが担っています。このインスリンが出なくなるか、あるいは、出てもその働きが弱まれば、細胞が糖分をもらう事が出来ず、血液中の糖分の値が上がったまま(高血糖)になります。腎臓では、血液中に含まれる余分な糖分が回収され、再利用されますが、血糖値がある一定値以上になると、腎臓での糖分の回収がされず、おしっこに出されます。おしっこに糖分が多く捨てられるのに伴い、(浸透圧の関係で)水分も多く捨てられる=おしっこが多くなるので、のどが乾き、水をたくさん飲むことになります。
体(細胞)が必要とする糖分が不足すれば、食べ物から糖分を取るために食欲が異常に高まります。しかし、摂取した糖分は細胞まで届きません。そうなると、次なるエネルギー源として、自分の脂肪を利用しようとします。脂肪を利用すると体は痩せていき、脂肪を利用する事でケトン体という有毒物質(脂肪をエネルギーとして使った時に出てくるゴミのようなもの)が血液中に溶けだし、血液が酸性化します。この状態を糖尿病性ケトアシドーシスと言い、嘔吐や食欲低下や元気消失などの症状が現れ、進行すると昏睡状態になり、命に関わることになります。
原因
膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが悪かったり、分泌が少ない事により起こります。はっきりとした原因は分かっていませんが、遺伝的要因や肥満などの環境因子(他にも運動不足やストレスなど)、感染、免疫介在性膵炎、ランゲルハンス島(インスリンを分泌)の発育不全など、複数の要因が重なりあって起こっていると考えられています。
糖尿病には、①インスリン依存性糖尿病 と ②インスリン非依存性糖尿病 の2つがあります。
①インスリン依存性糖尿病
インスリンが、膵臓から分泌されなくなることで発生します。インスリンの量が不足する結果、細胞に吸収されなくなった糖分が血液中に過剰となり高血糖となります。犬の場合、多くはこちらに分類されます。
②インスリン非依存性糖尿病
インスリンは分泌されているものの、その効き目が弱くなっているために起こります。このタイプの糖尿病は犬では一般的ではありませんが、メス犬の発情後期(発情期の後の約2ヵ月間)で黄体ホルモンが上昇している際、一時的になってしまうことがあります。猫の場合は、どちらのタイプもあります。
症状
高血糖により尿糖が検出されるまで症状が現れません。尿糖が出るようになると初期症状として下記のような症状を示すようになります。
・多飲多尿 (たくさん水を飲んで、たくさんおしっこをする)
・異常な食欲
・食べている割には痩せる
糖尿病が進行すると、糖尿病性ケトアシドーシスという状態になります。この状態になると、
・元気消失や食欲不振
・嘔吐や呼吸促迫
・重度脱水
が起こり、最終的には、昏睡状態から亡くなることもあります。
また、糖尿病は、色々な病気にかかり易くなる疾患としても良く知られています。例えば、白内障や腎炎、膀胱炎、歩行異常のような神経障害、皮膚炎、肺炎など体の抵抗力を低下させ、病気に罹り易く、病気を治しにくい体にします。
診断
血液中の血糖値を測る検査と、尿中の糖分(尿糖)を測る尿検査があります。血糖値は、食後高くなり、一定時間が経つと減少します。ですので、空腹時に血糖値が高いのは要注意です。ただ、ストレス下の状況では、一時的に血糖値が上がるケースもある(特にネコちゃんの場合)ので、気分を鎮めたあとに採血する必要があります。血液中の血糖値は問題なく、尿糖だけ検出される場合もあるので、尿糖=糖尿病ではありません。自己判断しないようにして下さい。
治療
生涯に渡りインスリン注射が必要になります。適切な量のインスリン注射を接種することで、余病を併発しないかぎり、想像以上に元気に寿命を全うできますが、糖尿病性ケトアシドーシスという状態であれば、一刻も早い対応が必要ですので、入院治療になる場合もあります。
注射すべきインスリンの量を正確に決定するためには、1~2ヵ月くらい、慎重に検査入院や通院を重ねていきます。インスリンの量が少なすぎれば、血糖値は下がらないし、量が多く効きすぎれば、急激に血糖値が低下して、体がフラフラし、ひどければ昏睡状態に陥ることもあります。焦りは禁物です。
インスリン注射は、毎日のため、その都度、動物病院に通院すれば、ストレスも費用も大きく、飼い主さんの手間ヒマもかかります。ですので、獣医師の指導を受け、自宅で飼い主さん自身が注射し、治療していくことが大切です。
また食餌への配慮も重要で、糖尿病で痩せているなら栄養バランスのよい総合食をきちんと与えて体力の回復を図り、その後、食後の血糖値上昇を緩やかにするために、吸収速度の違う炭水化物を混ぜる事や食物線維を配合した食事に切り替える事も大切です。また、糖尿病では脂質の消化も負担になるので、食事に含まれる脂肪分を控えめにしましょう。
ネコちゃんの場合、痩せる事でインスリンへの感受性が増大し、インスリン治療が不必要になる事があります。インスリン注射をしているコを含め、病気を持っているコの場合、何か変化があれば、すぐにかかりつけの病院に連絡し、相談しましょう。