会陰ヘルニアについて
会陰ヘルニアとは、会陰部(お尻のほうから見て肛門の下辺り一帯)や肛門の脇辺りがポッコリと膨らみ、排便困難に陥る病気の事です。ポッコリした所に腸や脂肪をはじめ、膀胱などが飛び出します。
原 因
肛門のまわりは外肛門括約筋や内閉鎖筋、尾上筋、肛門挙筋などの筋肉が取り巻いています。その奥に骨盤腔があり、元々“すきま”が存在します。年齢と共に各筋肉が衰え、細く、薄くなる事で、大きな“穴”が出来上がり、腸や脂肪、時には膀胱などが飛び出します。つまり、会陰部の筋肉が弱くなる事が主な原因で発症します。この筋肉の脆弱化は、
① 男性ホルモンの影響
未去勢の雄の場合、男性ホルモンによる前立腺肥大を起こし、慢性的な便秘や持続的なしぶり(直腸がお腹側から前立腺に押されて便をする度に過度に踏ん張る状態)が起こる事で、この病態に拍車をかけます。
② 腹圧の上昇(よく吠える・咳込み易いなど)
③ 筋力の低下を引き起こすような病気
などが関係していると考えられていますが、不明な部分も多いようです。ただ、経験的に、高齢で未去勢の男の子で多く経験します。
症 状
排便困難の症状で来院される事が多いです。排便困難の中には、最近便が細い、排便時便が出にくそう、便に血が付くといったものも含まれます。実際は、お尻も腫れているのですが、毛に隠れて分からない事も多いようです。稀に膀胱が飛び出した場合には、膀胱が反転するため排尿障害が見られます。この場合は、おしっこが出なくなるので、そのままの状態にしておくと尿毒症になり、亡くなる事もあります。
診 断
症状と特徴的な外観、直腸検査(肛門から指を入れて肛門周辺の腸越しに筋肉を触る検査)で容易に判断する事が可能ですが、ヘルニアの程度や脱出しているものが何かを確認する為に、レントゲン検査や超音波検査が必要になる場合があります。
治 療
飛び出した臓器を元の状態に戻し、筋肉の隙間をふさぐ外科手術が推奨されています。重度のヘルニアの場合、お腹を開けて曲がった直腸や出っ張った肛門の位置を元の位置に戻す為、直腸を腹壁に固定する手術も同時に行う事があります。また、去勢していない場合は同時に去勢手術を行うことが勧められています。去勢手術の目的は、持続する男性ホルモンの不均衡によりヘルニアが再発するのを防ぐ事と前立腺肥大を軽減させるためです。
手術方法に関しては多くの手技があります。骨盤隔膜構成筋(ヘルニア孔周囲の筋肉)を縫縮する基本法、内閉鎖筋転移術、浅殿筋転移術、半腱様筋筋弁転移術、総鞘膜利用法、人工材料埋没法や腹腔内臓器固定併用法などがあります。一概に、どの方法が優れていると言う事はありません。ヘルニアの状態や筋肉の状態などを総合的に評価して手術方法を決定します。整復手術をしても再発する可能性があるため、術後も食事管理に気を付け、必要であれば便軟化剤を手術後も使用しなければならないこともあります。
年齢が年齢だから…と手術しない事を選択する場合もあります。しかし、考えてみて下さい。人間でも数時間便を我慢するのは大変苦しいものです。ましてや、いつもいつも出そうで出ない便を抱えているワンちゃんは本当に辛いと思います。ただ、高齢だと心臓病や腎臓病など様々な病気を抱えていることが多く、手術するかどうか迷ってしまうかもしれません。術前の検査を十分に受け、主治医の先生とよく相談して納得のいく治療法を選びましょう。
◎当院の手術方法としては、基本法、内閉鎖筋転移術、総鞘膜利用法、浅殿筋転移術を中心に実施しています。また、状況に応じて腹腔内臓器固定併用法も同時に行っています。術後、皆さんが食事管理に気を付けて頂いている事もあり、今の所、各手術において再発はありませんが、1例だけ便軟化剤を投与した方が便の出方が良い子がいます。