肥満について ①
Ⅰ.肥満の定義と発生率
肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されます。
犬や猫では体脂肪率を正確に測定する事は困難ですので、臨床的にはボディコンディションスコア(BCS)や相対体重(RBW)などの主観的評価が多用されています。ある調べでは、飼われている犬や猫の25~35%が肥満傾向にあると指摘しています。
肥満の発生率は加齢に伴って増加し、多くは5~7歳以上で肥満になる傾向があると言われています。性別では雌の方が太りやすく、また、去勢・避妊している方が肥満傾向にあるようです。この事については様々な研究報告があります。活動性の低下、摂食行動や代謝レベルの変化が原因という報告もあります。また、雌ではホルモン(エストロジェン)の摂食抑制効果がなくなる事や手術前に比べエネルギー必要量が30%減少する事が肥満になり易くすると言われています。
国内と海外では、太りやすい犬種は異なるようです。日本では、M.ダックスフント、チワワ、ヨークシャー・テリア、プードルの4犬腫で、未去勢雄より去勢雄の方が肥満傾向にあるようです。M.ダックスフントは、雄も雌も去勢・避妊している方が太り易いと言う結果が出ています。
Ⅱ.原因
肥満の成因は、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る事です。この点だけ見ると極めて明快ですが、実はそんなに単純明快ではないようです。
通常、肥満は原発性肥満と症候性肥満に分類されます。背景に何らかの疾患があり、その症状の1つとして肥満になるものが症候性肥満です。代表的な疾患としては、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌・代謝性疾患が挙げられます。一方、原発性肥満は、それ以外の全ての肥満で、遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用によって生じます。ですので、付いている名前は “単純” ですが、その成因はとても “複雑” なのです。
遺伝的には、活動性に関する遺伝子や食べ物の好みに関する遺伝子など、多くの遺伝子の関与が予想されています。例えば、実験動物レベルにおいて、レプチン(過剰な摂食行動を阻止する機能を持つ)をコードする遺伝子の変異により肥満になる事が証明されています。しかし、伴侶動物においては、確実に肥満との関連が証明された遺伝子は今の所、見付かっていません。もちろん、“太りやすい犬種”として知られるものはいくつかあり、疫学的にみて遺伝要素が関与している事は十分に考えられます。
Ⅲ.肥満と病気の関連
犬や猫の肥満により、様々な病気を誘発する可能性があります。特に多くの研究や証拠が示されている事は、
寿命の短縮(平均1年10ヶ月の短縮)
運動器疾患(十字靭帯断裂、股関節・椎間板疾患)
急性膵炎(特に犬)
糖尿病、脂肪肝(共に猫が主)
麻酔時間の延長
創傷治癒の阻害(傷が治りにくい)
上記以外にも報告は少ないですが、
循環器疾患(心筋への負荷増大、運動負耐性の悪化)
呼吸器疾患(気管虚脱、短頭種症候群、喉頭麻痺)
皮膚疾患(外耳炎、膿皮症)
泌尿器疾患(尿道括約筋機能不全、シュウ酸カルシウム尿石症)
腫瘍(乳腺腫瘍など)
などが肥満により発生しやすいと言われています。
全てが肥満の犬や猫にだけ起こると言う事ではありません。肥満ではなくても別の理由で十分、起こる事が考えられます。上記に挙げた病気の原因として、肥満が1つのリスクになると考えて下さいね。
次回は、肥満の診断や治療について書こうと思います。